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岩手県大槌町にある庭園に、「風の電話」と名づけられた電話ボックスがあります。回線がつながっていないこの電話は、亡くなった人たちに思いを伝えようと設置され、震災の後、多くの人が自分の大切な人に向けて語りかけてきました。その風の電話がある庭園で4月末、小さな音楽祭が行われました。風の電話をつくった男性、そして音楽祭に出演した人たちは、新緑の森に響く音にどんな思いを込めたのでしょうか。

(佐々木格さん)
「何でも手がかかるんだ。手がかからないことはひとつもない」

 大槌町に暮らすガーデンプランナーの、佐々木格さん73歳です。1999年、釜石の製鉄所を早期退職した佐々木さんは、その年から大槌町に、長年の夢だった英国風の庭園=イングリッシュガーデンを作り始めました。美しい花々に囲まれた庭園には、白い電話ボックスがひっそりと建っています。

(佐々木さん)
「いとこががんで亡くなりまして、ごく一般の人が亡くなった後、つながりたいという人がいた場合、つながるものが必要だ。それで考えたのが風の電話なんです。電話線のつながっていない電話で、つながるということを考えた」

 2010年の年末、大切な人を失った佐々木さん。さらにすぐ後に東日本大震災が発生したこともあり、震災発生の翌月に亡き人に思いを伝える、「風の電話」が完成しました。新聞やテレビでも紹介され、震災で愛する人を失った人をはじめ、そんな人たちに寄り添いたいと願う人も訪れるようになりました。

(佐々木さん)
「風の電話に来て共感した人たちが、それを自分の作品、アートに反映させているんです。ここで発表したら、多くの方々に共感を与えるんじゃないかと思ったわけです」
地元出身のトランペッターは祈りを込めた自作曲「1286」を演奏

音楽を通して伝えたい「ありがとう」


 佐々木さんは仲間に呼びかけて先月、庭にほど近い森の中で、「風の電話音楽祭」を開くことにしました。

(訪れた音楽家は)
「この森すごい素敵ですよね。お花も咲いてますし、天気も恵まれそうですしワクワクします」

 演奏するのは大槌の若者たちや子どもたち、そしてこの取り組みを応援するボランティアです。

(佐々木さん)
「皆さんの協力を得まして、何とか盛り上げていきたいと思う」

 演奏を楽しむ町の若い人たちの中にも、風の電話で思いを伝えたい人がいます。

(震災でおじと親友を亡くした菅谷安美さん)
「2人いるんですけど・・これからもがんばるから見ていてねって伝えたいです。もう取り戻せないものとか、もう会えない人がいる現実と向き合うには、まだまだ時間がかかるなってすごい思います」


(臺隆裕さん)
「僕の中で、祈りってこういうことだろうなって思って楽譜を書いてみたんです。それが1286っていって、曲名なんですけど、亡くなった方の人数をタイトルにしました。僕なりの覚悟を持って、この曲は東京で演奏する曲でもないですし、いっしょに演奏したのはまだ数回しかないんですけど、いろんな祈りを込めて、何ができるかすごく考えて作った曲です」

 地元の高校を卒業して今は東京を拠点に、若手ジャズトランぺッターとして活動する臺隆裕さんです。

(臺隆裕さん)
「話したい人はいるんですけど、今は僕は違うかなって。今お話しても・・なんだろうな、その人と会って笑顔で、何か話できるかっていったら難しいかも。皆さんが亡くなったことに対して、僕はちゃんとずっと憶えていました。ずっとそばに僕なりの形で、皆さんのそばにいましたよって伝えたいですし、解放っていうか音楽を通して、亡くなった人たちに対して、震災前の町に対して、育ててくれたものに対して、少しずつありがとうという、言葉以上のありがとうを、音楽を通して返していけたら」
悲しみを乗り越え「本当の意味の心の復興を」と語る佐々木格さん

「風の電話」がつながる、その先へ


(合唱団の子ども)
「私たちはひとりではないこと、姿は見えなくても、いつも誰かが見守ってくれているということ、そう信じて生きていきたいと思いました」

 音楽祭の最後は、佐々木さんが詩を書いた歌、「風の電話」を子どもたちが歌いました。

(訪れた人)
「この春の息吹を感じる中でうかがえて、とっても参加して良かったと思ってます」
「とても素晴らしかったです。楽しく過ごさせていただきました」

(佐々木格さん)
「悲しみとか苦しみを伝えていくだけじゃなくて、それを乗り越えて次につなげるんだということが、より大事なことなんです。それをどんどん形にして、本当の意味の心の復興をはかっていかなければ」

 悲しみや苦しみを乗り越えて、子どもたちに託す町の明るい未来。風の電話の先にいる人たちも、その未来を待ち望んでいるに違いありません。
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