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今週は東日本大震災の発生から7年を迎える被災地の今を見つめてきました。シリーズ最終回はなりわいの柱、水産業にスポットを当てます。逆境の中、「水産業こそが地域の復興につながる」と信じる1人の男性を通して、再生へのヒントを探ります。宮古駐在・髙橋和人記者の報告です。
 
宮古市藤原地区です。海に面し、古くから水産業が盛んな地域です。津波から7年近くが経ち、被災した建物の多くも元に戻っています。

 (共和水産・鈴木良太さん)「身厚で鮮度が良いです、すぐそこに浜があるのが強みです」

 ここで水産加工会社、共和水産を営む鈴木良太さん36歳です。イカを主力商品に事業を展開しています。

 (鈴木良太さん「復興、復興と1年目、2年目、3年目はがんばっていたんですけど、途中でやっていくうちに、どうやったらこのまちをもっと元気にさせられるか、発展させられるかと考えた時に、水産業も厳しい時代になったと痛感しながら日々仕事をしています。」

 1985年創業の共和水産は、従業員およそ50人の、宮古では比較的大きな水産関連の企業です。しかし津波により冷凍施設や原材料が被災し、1億円を超える被害を受けました。

 (鈴木良太さん)「会社を続けた方がいいかどうか全然分からない状況の中で、それでも共和水産で働きたいと言ってくれた言葉に奮起して、会社を続けなきゃだめだ、発展させなくてはと思った」

 (漁船に乗り込んだ鈴木さん)「イカ、イカ、イカほら…やっぱり良いな、最高」

 危機からの復活へ─。鈴木さんが考えたのが、自らを「イカ王子」と名乗りブランド化することでした。自慢の海の幸は発想次第で必ず復活させる事ができるという強い確信からでした。

 (鈴木良太さん)「今イカに惚れてたの、イカに恋するイカ王子」

 震災後、新たにインターネットでも販売やPRをスタートし、工場にも最新鋭の衛生管理システムを導入。震災で落ち込んだ売り上げは今では倍、6億円を超えるまでになりました。しかし、鈴木さんの前に新たな壁が立ちはだかります。ここに来て、宮古の海で魚が獲れなくなったのです。

 震災前の2010年度には4万トンを超えていた宮古市魚市場での水揚げ。それが津波によっておよそ7000トン減りました。その後持ち直したかに思えましたが、2015年度、2016年度は3万トンを下回り更に減少傾向。市場が被災し、船が流れ漁自体がままならなかった震災の時の水準にすら遠く及ばない状況です。

 (鈴木良太さん)「魚が劇的になくなった、ここ埋め尽くすぐらい魚もいっぱいあったのが、今これだけ空いている場所がある、寂しいですね」

 宮古市魚市場は去年、施設を倍に拡張しました。しかし今、そのスペースを使う機会はほとんどありません。鈴木さんが買い付けるスルメイカも不漁で、ここ数年で3倍もの高値がつくようになってしまいました。工場を稼働するためには高くても買うしかない、しかし買っても値上がり分を単純に商品の価格に乗せれば取引先は敬遠するばかりです。

 (鈴木良太さん)「何が一番苦しいかと言うと海の中誰も分からない」「全て宮古の海産物、不漁、高騰と言うところがつきまとっているので正直、この先どうして行ったらよいのだろうか」

 先月行われた宮古市の新たな水産物を発表するコンクール。

 (宮古市・山本正徳市長)「地元にある特徴のある商品を、売れる商品にするためのお手伝いをしていきたい」

 毎年このイベントに参加している鈴木さん。この局面を打開しようと今年出品したのは…イカではなくマダラのフライでした。

 (鈴木良太さん)「(イカ以外のものを扱うことに葛藤は)最初はありました、ぶれちゃうかなと思ったが、これ(イカ)だけじゃだめだと、宮古の良さを伝える上でお客さんは色々な魚を求めている」

 イカだけでなく取り扱う魚の種類を増やすことで、量や価格のリスクを分散し、販路も広げようというのです。これまで培ってきた会社の歴史やノウハウを考えれば「イカ王子」としてまさに苦渋の決断でした。

 (鈴木良太さん)「水揚げ量日本一の宮古港のマダラを使っています。鮮度の良いマダラを使っています、身がふわふわで臭みが一切ありません」
 
初めての試みに自らが先頭に立ち、消費者の反応を直接確かめます。

 (試食した人)「中にふわっとマダラが入って、ボリュームがあって良い」「おいしいです、揚げたてだし、また食べたいです」

 (産直で呼び込みをする鈴木良太さん)「海の産直、きとがんせオープンします。どうぞ、いらっしゃいませ」

 業界の垣根を越えた取り組みも始めました。2016年に立ち上げた海の産直「きとがんせ」です。鈴木さんら水産加工と包装資材を扱う7つの業者がそれぞれ手がける自慢の海産物を販売しています。普段は卸売向けの業者が直接消費者に売ることで流通コストを抑え、安値で売る。しかも連携して店を運営するのはこれまで宮古では考えられなかったことです。

 (鈴木良太さん)「魚価が高騰して、それを商品の売価につなげることができずにいた。それを嘆いていてもしょうがないので私たち加工業の人たちが工夫して出せればと」

 週末限定営業の店は口コミで評判が広がり、宮古で最も賑わう魚屋の1つになりました。

 (買い物客)「一番良いのは安いから。色々あるからね」「お得だと思います。鮭とかコロッケとか美味しいです」

 震災後、復興へとただひたすらに前を向いてきた鈴木さん。積み重ねてきた人脈が苦しい時代の中で生きました。先月下旬。この日共和水産を訪れたのは沖縄県に本社を置く商社「萌す」の後藤大輔社長です。

 (商談の様子)「決まりです」

 (鈴木良太さん)「やっとイカの可能性が出てきた」

 水産物を国内外で取り扱うこの企業と去年から商談を重ねてきた鈴木さん。抜群の鮮度と品質管理が高い評価を受けこの日、首都圏向けのバーベキュー食材として共和水産のイカを提供することが決まりました。

 (商談先の社長)「すごく設備も整っているし、皆さんがんばっているので早く我々も届けたい。(Q.消費者に受け入れられそうですか)大丈夫だと思います」

 ゆくゆくは海外への販路の足掛かりにもなる大きな契約でした。

 (鈴木良太さん)「魚が獲れて販売までのプロセス、ものづくりをもっと密に水産加工業者で一緒になってやっていくことがすごく大事。食を扱う宮古のみんなでもっと歩んでいかなくては、そこに自分は真ん中に立って水産の通訳士みたいな役割をやっていきたい」

 工場と魚市場経験したことのない巨大な壁に対峙しながらの7年─。鈴木さんは自身の仕事を水産業の未来の姿と重ね、浜でのなりわいに活路を見出します。
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