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今月11日、あと6日で東日本大震災の発生から7年を迎えます。今週ニュースエコーではシリーズで復興の現状や震災の教訓について考えます。1回目は津波から漁船を守る「沖出し」についてです。ルールが策定された一方で、現場の漁師には葛藤もありました。竹本記者の取材です。
 
(漁協職員)「5回ほど会議をしてまいりましたのであらかたルールができているかと思います」

 先月28日、田老町漁協と県がある会議を開きました。協議の内容は、津波の危険性が高まった際沖合に漁船を避難させるいわゆる「沖出し」に関するルールについてです。

 (田老町漁協・小林昭榮組合長)「皆が共有していかなければその地区の津波に対する対応ができないと思うので。今までは個々バラバラの感じがあったので」

 沖合は、水深が深いため海面上昇の影響も小さく津波を回避できる可能性が高くなります。漁船を守ることができれば漁業の再開に高額な資金がかからず、早い時期に操業の再開が可能となりますが、「沖出し」は波に逆らうため転覆や沈没のリスクも伴います。

 県によりますと東日本大震災の際、県内でおよそ400隻の漁船が「沖出し」を行い、多くの漁師が漁船を守った一方で、少なくとも5人が犠牲となったといいます。

 (県漁港漁村課・阿部幸樹総括課長)「漁船の避難は自らの命を自ら守るということが大前提となります」

 先月28日の会議と漁協の理事会を経て「沖出し」のルールが策定されました。岩手、宮城、福島の東日本大震災の被災3県では初のルールです。震災の教訓を基に漁師の命を最優先に考えられています。

 ルールの主な内容です。津波警報などが発表された場合、陸上にいる漁業者が「沖出し」することは禁止です。一方、海外などで発生した地震により到達までに2時間以上かかる遠地津波では定置網船のような大型の船に限り沖出しが認められます。また海上で操業中の場合、いわゆる「サッパ船」のような小型の船は原則として沖出しはせず、大型の船は田老漁港までの移動時間を目安に5分以内の場合は帰港か沖出しを状況に応じて判断、5分以上かかる場合は沖出しするととしています。

 (田老町漁協・小林昭榮組合長)「このルール化がひとつの目安として機能していくと思います」
 
「沖出し」か?それとも「高台への避難」か?再三津波の被害を受けてきた三陸の漁師たちは、長年に渡ってこの課題に向き合ってきました。

 ここに震災の際に「沖出し」を行った大船渡と陸前高田の漁師たちの体験をまとめた貴重な証言集があります。

 (証言内容)「速力10ノットで航走するよう前進操作を行ったが、実際は津波により速力3ノットしか出なかった」「家屋、木材などあらゆるガレキが流れてきた。ガレキが多く固まって流れている所と分散して流れている所があり、走れる所を見極めながら避難行動を取った」

 数々の証言からはあの日の緊迫感が伝わってきます。

 中心となって制作を進めた大船渡市赤崎町の漁師志田恵洋さん68歳です。大船渡市では震災で「沖出し」中に2人の漁師が津波の犠牲となっています。いかに安全に「沖出し」するか?再発防止への思いが志田さんを証言集の制作に駆り立てました。

 (志田恵さん)「悔しい思いがあると思いますし、そういった人たちの思いに報いるためという…。その証言に基づいて自分たちで的確に判断していただいて最悪の事態を避けていただきたいなと」

 志田さん自身も震災で「沖出し」を行い、漁船「志和丸」を守りました。湾内のカキの養殖場にいたときに地震が発生したため、迅速に沖合へと避難することができましたが、沖出しの最中にはある異変も感じていました。

 (志田さん)「けっこう早かったんですね私は、おそらく湾口防波堤まで5分か6分で到達したと思うんですけども地震が終わってからね。魚群探知機の反応のなかがすっかり汚れて潮が動いているなと感じましたし」

 志田さんは漁師だった父・初夫さんから津波の際は「沖出し」をして船を守るよう教えられてきたといいます。

 (志田さん)「海で働けば食べるものは最低限獲れるよと、そして一生懸命がんばれば次の家も太平洋からもってこれるよと獲ってこれるよというような意味で話されたように記憶してますね」

 震災では被災した漁船を造り直すことと修理に手厚い補助があり、同様の条件であれば漁師たちも命を最優先にしたルールも受け入れやすくなると志田さんは考えています。しかし今後起きるすべての津波災害に補助が適応されるかはわからず、今回のルールでは、漁船の被害への補償については触れられていません。

 (県漁港漁村課・阿部幸樹総括課長)「自らの財産である漁船を失うということは非常に大変なことなんですけども、しかしながらまずもって生きる、自らの命を自ら守るということが一番重要だなとおそらく今回の震災で認識されていると思います」

 県は田老町漁協のルールをモデルケースに、新年度は別の漁協でルール化に取り組み県内全ての漁協に策定を促す考えです。

 志田さんたち大船渡の漁師たちは5年前、亡くなった2人の仲間のための慰霊碑を建立しました。この場所に立つといつも考えるのは「沖出し」の是非です。

 (志田さん)「おのおの自分で判断する以外にないかなと私は思ってますけどね(沖出しを)勧めようとも思わないし止めろとも言えないですね私は。そこが難しいところだと思いますね。亡くなった方々もそういう思いはあると思います」

 志田さんは、「沖出し」を回避し漁船を失う漁師が増えれば、それが廃業につながり漁業が衰退するのではないかと危惧しています。一方で命を守る重要性も理解しているからこそ葛藤しています。震災から7年が経とうとする今も賛否が分かれているのが「沖出し」の現状です。命を守るためのルールが動き出したいま、多くの漁業者が納得するものにできるかどうかが策定の広がりにつながるカギとなります。
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