IBC岩手放送

 
東日本大震災を教訓に、岩手県陸前高田市の住民が津波から命を守るためのある地図を作りました。「逃げ地図」と言います。消防庁の表彰も受けたその取り組みを紹介します。

津波から避難する経路と時間がわかるようにした「逃げ地図」。正式には「避難地形時間地図」と言います。東日本大震災で大きな被害を受けた陸前高田市広田町で、住民たちがこの「逃げ地図」づくりを行ってきました。

「3分間にお年寄りが歩ける距離が129メートルだと」

 取り組みの中心を担ってきたのが、田谷地区集団移転協議会の佐藤武会長と事務局の村上俊之さんです。

(村上俊之さん)
「ここで作業している人、俺なんか実際ここで作業しているんですけど、ここで作業している人が大津波警報が出て徒歩で逃げる際は15分歩かないと安全なところまで上がれませんよっていうのが色に分かれています」

 「海に人がいるかも」、「距離があって徒歩で逃げるのは難しい」など、注釈も書き込まれた大野・田谷地区の逃げ地図。高台に通じる道路は緑や黄色、赤で色分けされ、避難時間も一目で分かります。

(佐藤武会長)
「大前提はこの辺から有事の時に被災者を出したくないという、そういうことが一番の基本、もとですのでね」

 災害があっても犠牲者が出ない地域に―。佐藤会長たちはその一心で、「逃げ地図」づくりをはじめ、防災力の向上に取り組んできました。
防災まちづくり大賞で「消防庁長官賞」を受賞する佐藤会長

震災の経験を活かした「逃げ地図」は消防庁から表彰も


 そうした活動が評価され、田谷地区集団移転協議会は消防庁が主催する第21回防災まちづくり大賞で上位から2番目の消防庁長官賞を受賞しました。今回は全国106の団体から応募がありました。

(佐藤武会長)
「まだ実感わかないけど今からでしょう。まずおかげさまで大きな賞をいただきました」

(選定委員・山本俊哉 明治大学理工学部教授)
「逃げ地図そのものが三陸の経験を活かした形でできてきていますから、今回の田谷の取り組みが受賞したっていうことは全国にこの経験っていうものを広げていくということでとても重要なことだと思ってます」

 表彰式の後の意見交換会で、佐藤会長と村上さんは消防庁の青木信之長官やほかの受賞者たちと地域の防災を巡って意見を交わしました。そこで出た話は―。

「こっちは30メートル近く波が遡上して、こっちは10何メートルで済んだっていうのがあって、これってわたしたちは伝えなきゃならない」「本当にそうですよね」「実際ここで犠牲になった方がいるわけですからその犠牲を無駄にしないためにも今回このような逃げ地図を作って現実が分かるわけです」
津波に襲われた陸前高田市大野地区(広田地区コミュニティーセンター提供)

地図づくりから見えてきた「津波の現実」


 村上さんが気づいた現実というのは、「防潮堤が壊れたか、壊れなかったかで津波が達した高さに差が出た」というものです。防潮堤が2か所で決壊した田谷地区の津波の遡上高は、およそ12メートルでした。

(村上さん)
「逆に大野、向こうの方がですね、防潮堤が壊れなくて防潮堤の裏に海水がたまっちゃって、その海水の上にまた海水が乗ったっていう感じですね。だから大野の方が波の遡上が高かった」

 防潮堤が「壊れなかった」方が、むしろ高い場所まで津波が駆け上がったというのです。逃げ地図づくりは、地域を襲った大津波の検証にもつながっています。

 「津波っていうのは普通に押し寄せる高潮の波ではなくてはっきり言って水の塊じゃない。水の塊は上に乗るんだよね。それをここが証明している」
「津波以外の災害にも応用できる」と語る、佐藤会長と村上さん

50年後、100年後へ受け継いてもらうことが「防災」


防災に関する情報や課題も反映させた逃げ地図は、津波だけでなく土砂災害や河川の災害にも応用できます。

(村上さん)
「ああいった(去年8月の台風10号の)被害もこういうのを策定していることによって被害がもうちょっと少なくなったんじゃないかという気がしているわけなんです。もちろん災害ですので何がいつ起きるか分からないということで、俺たちは大丈夫だという地域にこそ、こういうのをやってほしいなと思っているところです」
(佐藤会長)
「将来的にこれは申し送りして50年後、100年後の参考になると思います。受け継いでいってもらいたい。それが最終的には防災」

 自分たちの安全から次の世代やほかの地域の安全へ。「逃げ地図」を作り上げた佐藤会長たちは住民主体の活動をさらに進めていく決意です。
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