IBC岩手放送

 
岩手県内陸の花巻市に去年オープンした、大船渡・綾里漁協のアンテナショップ。そこで料理人として奮闘するのは、故郷への思いを胸に包丁を握る青年です。

新鮮なカキ。ホタテ。ワカメ…。 大船渡・綾里漁協のアンテナショップとして去年11月、花巻にオープンした食事処「りょうり丸」です。調理場で魚をさばいているのは山下聖人さん28歳。大船渡市三陸町綾里地区の出身です。山下さん、実は6年前まで地元で美容師をしていました。ところが…。

(山下聖人さん)
「その頃は子どもだったので、どうにでもなれという思いだった」

 22歳。都会への好奇心と山下さん曰く「若気の至り」で、東京の友人を頼りに家族にも告げず、家出同然で故郷を後にしました。震災発生の前日、2011年3月10日のことでした。翌3月11日、震災が起き東京で帰宅難民になりました。故郷を案じつつも東京に残り、割烹やイタリア料理店で修行を積むこと6年。去年、岩手に戻ってきました。

(山下さん)
「(りょうり丸のオープン)直前に東京から戻って来て、料理長をやってみないかという話があり、やりがいがありそうだったので引き受けた。もうそろそろ戻ろうかなというタイミングだった」
「りょうり丸」のランチにも綾里のワカメが・・・

東京でふるさと綾里のワカメの美味しさに気づく


 東京の飲食店で働く中で、気づかされたことがありました。地元・綾里で採れたワカメの美味しさです。

(山下さん)
「本当に違う。東京のお客にも『これどこの?』と聞かれることが多くて、自信を持てた」

 りょうり丸のランチ。みそ汁に入っているのは綾里のワカメです。

(食べた人)
「おいしかったです。シャキシャキした」
「歯ごたえがあってワカメの味が強い」

 6年の修業を経て岩手に戻った山下さんの、料理人としての腕と態度は社長も認めるところです。

(佐藤寛志社長)
「まじめですね。初めて手にする食材もあるが、見たこともない料理がどんどん出てくる。すごい才能がある」
息子を思いながらワカメ漁に向かう山下さんの両親

ふるさと綾里では、山下さんの両親がワカメを採り「りょうり丸」へ提供


 山下さんの故郷、大船渡三陸町綾里地区。今がワカメ漁の最盛期です。山下さんの父親でワカメ漁師の卓也さんと母、祐子さんです。2人が採るワカメは息子の聖人さんが働く花巻市の食事処「りょうり丸」にも提供されています。去年の秋、ロープに種を仕込み成長させたワカメを海から引き揚げ、鎌で刈っていきます。

(父・山下卓也さん)
「(綾里のワカメは)肉厚でおいしいっていうね」

 父、卓也さんはワカメ漁20年。震災で船と養殖場、ボイル釜などを津波で流されましたが、翌年には漁を再開。東京で働く聖人さんの店にもワカメを提供しました。

(卓也さん)
「(息子は小さい頃から)自分の思った通りにいかないと大変。思ったことを貫くタイプ。料理人めざしているなら貫き通してほしい。それが夢なら」

(母・山下裕子さん)
「十分睡眠とってがんばってほしい。遊び回らないで」
山下さんの目標は「多くの人に綾里の海の幸を味わってもらうこと」

離れて気づいたふるさとの魅力


 夜、店を終え、ひとり社宅へ。山下さんのこの日の夕食は、コンビニで買ったそばでした。

(山下聖人さん)
「人の料理を作るのはこだわるが、自分の食事は納豆があればいいかなって感じです。お客さんに美味しいものを食べさせたい」

 いつも頭にあるのは「料理」。そして「故郷」「家族」のこと。

(山下さん)
「綾里に住んでいながら何も知らなかった。生産者と飲食をもっと身近に感じて、お互いに明るい未来を築きたい。(困難に負けない両親の)背中を見て育ってきたので、負けないでがんばりたい」

 離れてみて初めて気づいた故郷の魅力。そして両親の強さと優しさ。山下さんの今の目標は一人でも多くの人に、綾里自慢の海の幸を味わってもらうことです。
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