IBC岩手放送

 
岩手県大槌町でこのほど、住民手づくりのステージ「おおつちバラエティショー」が開かれました。舞台が描いたのは、気持ちが沈みがちな町の現状と、それを乗り越える未来への希望です。

(舞台音)「病院さ行ってケッツさ栓してもらうべー」

 今月5日、大槌町の城山公園体育館が笑いに包まれました。町民手づくりの舞台、「おおつちバラエティショー」です。去年に続き2度目の開催で、震災で町から離れている人たちも大勢かけつけました。ショーの目玉は演劇「民宿へ行こう」です。

(舞台音)「ここ数年都会じゃ、地元志向ってのが高まって、UターンとかIターンとか古民家とか、田舎にスポットが当たってたんだ」

 劇の舞台は田舎の寂れた民宿。Uターンで故郷に帰ってきた跡継ぎ息子と、その家族や周囲の人々が織りなすコメディです。

 本番まで2週間に迫った先月25日、稽古は大詰めを迎えていました。主役で「民宿えびす丸」の息子、青一を演じるのは町内でカレー店を営む植山竜太郎さん52歳です。

(植山さん)「今まで演劇とかお芝居とか、一切やったことがなかったので、やってみたいな、やってみようかなと」

(練習音)「このままじゃこの民宿、俺が継ぐ前につぶれちまうよ」

(佐々木彰監督)「大槌の状況をそのままに描いたんですね」

 佐々木彰さんは震災前から町民劇団で活動し今回、演技の指導にあたりました。

(佐々木監督)「震災があって活気がなかったり、いろんな人の顔に表情がない時に、何とか表情をつけたいなと」
カレー店を営む「主役」の植山さん 神奈川から大槌に移住し間もなく6年

震災支援をきっかけに大槌に移り住んで


主役を演じる植山竜太郎さんは、神奈川県の出身です。震災直後に食料を支援する団体から派遣され、そのまま大槌に残りました。芝居の仲間たちはそんな植山さんを、温かく迎え入れました。

(芝居仲間の赤崎幾哉さん)「公演が終わったら、今度は母ちゃんをめっけろってさ、で大槌の人口を少しでも増やしてくれ、せっかくだからワッハッハ」

 植山さんは町内の仮設商店街で、カレー店を営んでいます。

(植山さん)「震災があって大槌に来て、まさかここにひょうたん島があるとは知らなかったです」

 店の看板メニューは大槌湾に浮かぶ、蓬莱島にみたてたご飯を、2種類のカレーで味わうひょうたん島カレー。大槌に暮らして間もなく6年。植山さんを支えているのは、町の人たちの優しさです。

(植山さん)「自分が店を開業したことに対して、これほどの人が受け入れてくれたことは今までなかった。本当に感謝しております」
舞台のセリフが、「大槌の今」に重なって響く

「まちの魅力があるなら、信じてみたい。賭けてみたい」


そして迎えた本番当日。この日を楽しみに待っていた町の人たちで、客席は超満員です。町内の仮設住宅や、内陸で避難生活を送る人たちも招待されました。

(植山さん)「52歳が25歳に。半分以下に」

 町長もかけつけ、いよいよ芝居が始まりました。寂れた民宿の立て直しに、主人公の青一がとった策はテレビコマーシャルを作ること。しかし・・・

(舞台音)「こんな田舎町のボロくて寂れた、どうしようもない民宿をそのまま映して、いったい誰が来たいと思うんですか」「いや、だからありのままを映すって言いましたよね」「魅力も名所もない、果たしてそうですか? あなたの目にはこの町の何がみえているんですか」

 コマーシャルを作る会社の社長役、横濱千尋さんです。物語の脚本も書いた横濱さんは長年、町民劇団で活動していた父親を津波で亡くしました。京都の大学で演劇を学び、震災の2年後に大槌に戻って、今は町役場で働いています。

(横濱さん)「多くの若い世代が、大槌に帰ってきて頑張ってくれていることが、大槌にとって大きなパワーになっているなと思っていたので、その方々に勇気まではあれですが、伝わるものがあればと思って」

 ラストシーン。この町で生きると決めた主人公の青一は、社長の言葉に対してある決意を抱きます。

(舞台音)「確かにこの町には、都会的な魅力は全くありません。でも都会にはない何かがあふれています。こういうのをこの町の魅力というのだと、私は思いますけど」「魅力? 本当にこの町にあるんだろうか? このまちの魅力って何なんだろう? でもあるならば信じてみたい、信じてそれに賭けてみたい」

(横濱さん)「自分で考えたセリフではあったのですが、そのセリフの本当の意味っていうのを、主演の植山さんとか、そういった方から教えてもらえたと思っています。多分私も大槌に、そういう魅力があるんじゃないかと思い始めている」
心をひとつに取り組んだ芝居 笑顔の先に、まちの希望が見える

舞台から伝わった「まちの魅力」


大槌の魅力とは何か…。芝居を観終わった町の人たちに尋ねてみました。

(町民)「何かをするときに一致団結する気持ちが、みんなにあるということですね」「時間がゆっくりと流れているところと、自然に囲まれているところ。リズムが人間の生き方を変えると思うので、そういうところ」

 町民手作りで始めたおおつちバラエティショーは、2回目の公演を無事に終えました。

(佐々木彰監督)「すべて伝わったはずです。お客さんの顔を見ていると、本当に伝わった顔をしていました。わかった、もう何も言うなという顔をしていました」

 心をひとつにして芝居に取り組んだ、役者やスタッフの笑顔の先に、この町の希望が見えたような気がしました。
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