IBC岩手放送

 
国の重要無形民俗文化財にも指定されている、岩手県宮古市の黒森神楽が、映画化されることになりました。人々の暮らしに神楽が根付き、復興への力の源となっているのを後世に伝えるためです。

 巨木に覆われた霊験あらたかな山中を、楽器を打ち鳴らす神楽衆たちが厳かに登ってきます。毎年1月3日に行われる、黒森神楽の「舞い立ち」です。黒森神社の神様を、権現様と呼ばれる獅子頭に移す神聖な行事です。

(黒森神楽保存会・松本文雄神楽衆代表)「権現様を引き連れて集落の人たちと、楽しく元気づけに参りたいと思う」

 住民たちはシットギと呼ばれる、神への供え物を額に塗ってもらい、今年1年の無病息災と家内安全を祈ります。

(住民女性)「家族皆で元気にいられれば」「早く復興して皆落ち着いて、自分の家に住みたいです」

 黒森神楽は300年以上続く宮古の郷土芸能です。黒森神社を拠点に毎年、交互に南と北を巡行し浜の人々に舞を披露します。2006年には国の重要無形民俗文化財に指定され、震災後も絶やすことなく活動を続けています。

構想をあたため、去年12月に映画「廻り神楽」の制作を発表した

忘れられない「黒森神楽」との出会い


 その黒森神楽を撮影する人たちがいました。黒森神楽の映画化に挑むグループです。共同監督、プロデューサーを務めるのが遠藤協さんです。遠藤さんは名古屋生まれの36歳。大学卒業後、25歳で映像の仕事に就きました。2012年からは宮古市の震災の記憶伝承事業に関わり、映像記録をまとめました。宮古を初めて訪れた遠藤さんは忘れられない経験をします。黒森神楽との出会いでした。

(遠藤さん)「家が無くなった更地の中で、屋台を組み立ててやっている舞台、その上に神楽衆が現れて、どこからともなくやってきた人たちが、それを見てにこにこしたり、笑ったりしている。そういう風景を見た時に、これは何なんだろうと」

 少しづつ構想をあたため、去年の年末には長編ドキュメンタリー映画、「廻り神楽」の制作を宮古市で発表しました。黒森神楽を題材とした映画は初めてということで、市民からは大きな反響がありました。制作のコンビを組むのは、こちらも宮古で震災の記録に携わった大澤未来さんです。
2年に1度訪れる「黒森の神様」を親戚総出でおもてなし

「地域に溶け込む神楽の魅力」を丹念に撮影


 先月22日、津波で大きな被害を受けた大槌町の吉里吉里地区。イカ漁を営む漁家のお宅が、この日の神楽の公演場所、「神楽宿」です。毎年南北を巡行する黒森神楽。今年は南回りの年です。2年に1度の黒森の神様がやってきたと、親戚総出で神楽衆をもてなす浜の人たち。地域に溶け込む神楽の魅力を、遠藤さんたちは丹念に撮影していきます。そして待ちに待った公演の始まりです。幾たびもの津波を乗り越え、たくましく生きようとする人々の思いが舞に映し出されます。

(住民)「大漁祈願とか、こういう神楽とか神様、自然に体の中に染みついている」
「神楽を通じ三陸の文化や歴史、たくましさや強さを発信したい」と語る遠藤さん

被災地で人々の心を支える神楽の「役割」とは


 去年9月にクランクインした黒森神楽の映画。被災地に通い神楽の密着を通じて、遠藤さんが感じたことがあります。それは津波の「犠牲」者を慰め、海に「生きる」人々の心を支える─。そして自然と人間をつなぐ神楽の果たしてきた役割です。

(遠藤さん)「日々神様に皆さんが願いを届ける存在として、彼らはひょっとしたら重い責任感を感じながら、神楽をやっているんじゃないか。三陸が持っている文化とか、歴史の厚み、たくましさ、強さと言うものを発信していくことができるんじゃないかと感じています」

 黒森神楽の映画、「廻り神楽」は今年夏以降、東北を中心に全国各地で上映される予定です。神楽の舞に復興へと向かう三陸の人々の思いを乗せて─。
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