IBC岩手放送

 
大きな災害が発生する度に、被災者との共存を巡って課題となるのがペットへの対応です。災害時でも家族同然の存在でもあるペットと幸せに暮らしたい。岩手県宮古市で、その解決に向けて取り組む、犬の女性訓練士の思いとは─。

宮古市内の小高い住宅地で、犬の散歩をしている1人の女性。梶山永江さんです。

(梶山永江さん)「夕方もう一回運動とトイレして最後ご飯食べて」

 梶山さんは公認資格を持つ犬の訓練士。飼い犬を引き取ったり、出前講座を開いたりして、犬のしつけをしています。震災発生から6年近くが経ち、ようやく日常を取り戻しました。
仮設住宅で暮らしながら、ボランティア活動や復興への会議に積極的に参加

震災後、すべてを投げ出し地元・田老に戻る


 宮古市田老地区出身の梶山さんは大学卒業後、見習いを経て30歳の時、花巻市内にドックスクールを開いて独立。たくさんの飼い主たちと信頼関係を築き、軌道に乗っていた最中、2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。

(梶山永江さん)「一週間くらいたってから、どうにか車停めたりしながら、ガレキの中で場所には行きました。もう何もない田老の平地は、全部流されていた、無かったです」

 津波により実家は跡形もなく流され、梶山さんはその月のうちに仕事、生活の全てを投げ打ち田老に戻りました。

(梶山永江さん)「今帰らないと後悔する。保険を残して悲惨な状態の所に、自分は戻りたくない、戻れない、戻った時に地元の人たちとあわせる顔がない、私も全部捨てて」

 想像もしていなかった形での、ふるさと・田老へのUターン。
梶山さんは仮設住宅で暮らしながら、一市民としてボランティア活動や、復興に向けた会議に参加します。そして再び犬の訓練士として被災地で働き始めました。
 今年2月には家族とともに、宮古市崎山地区に自宅を再建。インターネットで出資を呼びかけ、400坪の敷地に犬の運動場や宿舎などを整備しました。震災発生から5年が経っていました。
定期的に「ペットとの避難体験会」を開催

ペットを伴う避難には多くの課題が・・・


 震災をきっかけに梶山さんが始めたことがあります。災害時におけるペットとの、適切な避難の仕方を飼い主に伝えることです。梶山さんは月に1回程度、宮古市内で飼い主とペットを対象に体験会を開いています。普段は余りしていない、飼い主以外からも餌をもらったり、ペット用のハウスにも入れるようにして、普段からの備えの大切さを訴えています。

(梶山永江さん)「ペットは家族だと言葉では言うが、本当のわが子ですし、飼い主の意識も少しづつ強くなってきているものの、あとは受け入れ側との歩み寄りと言うか、そういうのも話し合いも持っていかないと」

 そして台風10号をはじめとする、ペットを連れた避難の体験談を話し合いました。しかしペットを伴う避難には、更に多くの課題が立ちはだかっているのが実情です。

(体験談話し合い参加者)「いざすぐには行けない、時間的にも日頃から車にある程度のものは積んで」「避難所に行ってみたら、前例がないから外ですねと言われてしまった」「置いていくなんて考えられない。」

 宮古市ではペットを連れて、避難所の中に入ることは原則禁止とされています。音やアレルギーの不安が、避難者の中に1人でもいる限り、ペットを入れるのは現実的に難しいと言うのです。
 梶山さんは先月、保健所や市の担当者と意見交換を行いました。そして飼い主自身の努力とともに、一般の避難者とは別に、ペットと過ごせる避難所の開設を要望しました。その結果、県や市も必要性自体は認識してくれました。

(宮古保健所の佐々木泰平獣医師)「実際にペットを飼っている方の意見とか、取り入れながら、適宜変えていけば良いと思うので、より良いものになれば」
台風10号被害で預かっていた犬を飼い主へ

「犬たちを通して本当に色々なことを教わった」


 梶山さんは今、台風10号による様々な事情で、一緒に生活できなくなった飼い犬の保護もボランティアで行っています。
 この日は岩泉町鼠入地区から預かっていた、オスのソラくんが自宅に帰ることになりました。およそ1か月ぶりの帰宅。飼い主を見つけるとソラくんはしっぽを振って、精いっぱいの喜びを表します。

(飼い主)「助かりました。最初はどうしたら良いか分からなかった。子どものころから犬と一緒だったので、うれしそうですね」
そんな様子を笑顔で見守る梶山さん。自身が被災地に帰ってきた意味を再確認しました。

(梶山永江さん)「自分には犬しかないと、自分で頑張れる、やれることで一生懸命恩返しをしていく。犬たちを通して本当に色々なことを、今まで目を向けなかったことを教わった気がしています」

 震災のような極限の状態で、人とペットの共存は簡単なことではありませんが、故郷で生きることを誓った梶山さんの取り組みは、飼い主と行政、そして住民との橋渡しの役割を果たしています。
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